オリーブオイルが寒さにより固まることは、最近、知られるようになりましたが、実際にあった事例をもとに考察したいと思います。
写真は、未開封のオリーブオイルです。白いものが多数見えますが、室温下で3時間後にはきれいになくなりました。
結論から申し上げますと、白いものはオリーブオイルの構成成分の一つです。安心してお使い頂いて大丈夫です。
では、どうしてこういった事が起きるのでしょうか?
1.オリーブオイルの成分
オリーブオイルは、オリーブの果実から得られる植物油です。日本でも取れますが、当社はスペインのアンダルシア地方でとれたオリーブオイルを使用しています。オリーブといっても、国・地域・収穫した年によって違いがあるのは当然です。なので、一概にすべてが同じ成分とも言い難く、だいたい以下のような構成成分だと考えられます。(1%以下の少ない脂肪酸は省略しています)
融点とは、固体が溶けて液体になるときの温度のことをいいます。
右の表の通り、脂肪酸の種類によって、融点が全然違います。常温下のオリーブオイルは液体なのに、どういう事でしょうか。
脂肪酸名 | 比率% | 融点 |
オレイン酸 | 55-83 | 13℃ |
パルミチン酸 | 7.5-20 | 62.9℃ |
リノール酸 | 2.5-21 | -5℃ |
ステアリン酸 | 0.5-5 | 69.3℃ |
パルミトレイン酸 | 0.3-3.5 | 54.4℃ |
脂肪酸は酸の性質をもつカルボシル基1個と炭素と水素から成る炭化水素部分からできている。炭化水素部分が大半を占めるので、脂肪酸の融点の高低には、この部分の長さと形が大きく影響する。理由は、融点は脂肪酸同士の接触面積の多少(ファンデルワールス力)により決まるからである。したがって、炭化水素部分が長くなると脂肪酸同士の接触面積も増すので融点は高くなる。
一般財団法人 日本水産油脂協会HPより
一方、炭化水素部分の形は炭素同士のつながり方で決まる。つながり方は2種類あり、一つは炭化水素部分が直線状である飽和結合、もう一つは曲がっている不飽和結合である。つながり方の大半が飽和結合だが、ここに不飽和結合があるとそこで曲がる。こうした折れ曲がった形では脂肪酸同士の接触面積は直線状より小さくなり融点は下がる。
一般財団法人 日本水産油脂協会HPより
つまり、オリーブオイルの中では色々な脂肪酸が混ざっているため、お互いがくっつきます。くっつくので融点は上がるのですが、直線状の飽和脂肪酸であるパルミチン酸とステアリン酸では合わせて8~25%になり、残りの大部分が折れ曲がった不飽和脂肪酸であるため、結果的に融点は下がり、個体から液体に変わる温度が低くなるということが考えられます。
化学は不思議で面白いですね。
2.オリーブオイルが冷えると
実は上記写真のオリーブオイルは、一度湯銭(40℃前後)にかけていますが、すぐには元に戻りませんでした。
上記の3枚は、凝固が判明した商品の11時から14時までの経過です。
当時もとても寒い日が続いていました。室温下で3時間ほどで白いものは消失しましたが、一番大きいものが最後まで残るかと思いましたが、そうではありませんでした。
白いものの正体はなんでしょうか?あくまで仮説になりますが、以下のように考えました。
今年は厳冬でした。東京でも4年ぶりに大雪警報が出たくらいです。当社商品は製造後、倉庫に保管されます。ご注文があると発送され、次の倉庫に運ばれます。さらに注文があると、再び発送されドラッグストア様等の倉庫に保管され、そこから店頭に並ぶことになります。移動や温度の変化、振動などを経て、凝固や融解を繰り返すと、同じ成分が集まり易くなるのではないかと考えました。すると、融点が高いもの同士が集まると、溶けるまでに時間がかかることが予想されるわけです。
では仮に、最後まで残った白いものが、パルミチン酸やステアリン酸だった場合、70℃前後にしなくては元に戻らないのでしょうか?
実際には数時間で元に戻ったのですから、その必要はないわけです。溶けている最中も、他の脂肪酸と接しているので、単体よりは接している部分では融点は下がっていることが考えられます。ですから、数時間かかったたり、大きいものが最後まで残るとも限らないわけです。
改めて、自然物の不思議と、化学の解明の面白さにふれた出来事でした。2022年4月